
オオカミは淫らな仔羊に欲情す
第1章 プロローグ
私には6才年上の姉と双子の弟がいる。
姉とは町内でも評判の仲良し姉妹 ――、
弟は今、バスケ部の集中強化合宿中で留守。
共働き家庭の我が家は、両親共に仕事で家に
いない事が多くて、初音姉さんは忙しい両親代わって
私の面倒をみてくれた。
私は両親が家に不在がちなのは、
仕事で忙しいせいだとばかり思っていたけど、
実際は違った。
一昨年、祖父から全家督を相続し家業の老舗旅館
”和泉屋”の第**代目亭主となったお父さんにも
旅館の若女将であるお母さんにも
”愛人”と呼ばれる存在がいた。
姉さんは、夜中2人(お父さんとお母さん)の
罵り合いを偶然聞いてしまったり、ご近所の
小母さん達の噂話しなんかで、かなり前から
その事を知っていたらしい。
もちろんそんな噂話しの類なら、私の元にも
届いていたけど。
そんな話しは ”ただの噂”
小母さん達が暇つぶしに作った与太話し
に過ぎないと思っていた……。
ある日
余程慌てていたのか?
単なる掛け忘れか ――、
玄関のドアに鍵はかけられていなかった。
その瞬間、何故か分からないが酷い違和感を
絢音は感じた。
嫌な胸騒ぎもする。
…… ゆっくり玄関のドアを開けた。
そうして玄関の上がり框に綺麗に並べられた
男物の革靴を目にし、絢音は少し眉をひそめた。
(お客さんなんて珍しいな……)
けど、さっきからずっと止まらへん、この胸騒ぎは
何なんやろ……。
