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オオカミは淫らな仔羊に欲情す

第12章 予期せぬ……


「あ ―― えっと……可笑しい、ですか?」


  緊張のあまり、そんな事を聞いてしまって、
  心の中で”チッ”と舌打ちをした。


「とんでもない。結構似合ってるよ」


  顔に”嘘だ”と、大きく書いてある。

  けど、言われ慣れない歯の浮くような褒め言葉を
  面と向かって言われ、
  頬がカァァァッと火照ったのが分かった。


「それにしても奇遇だな、こんな所で会うなんて」

「え、ええ、ホントに……」


   ”どうしよ、話し続かない……”

  でも、ホントこんな所では会いたくなかった……。


「―― 鮫島様、お待たせ致しました。お車、玄関前に
 停車しておきました」


  と、ホテルのバレットパーキング係が車のキーを
  竜二に持ってきた。


「あぁ、どうもありがとう」

「―― それじゃあ、私はこれで」


  軽く会釈をして立ち去ろうとしたけど。


「あ、ちょっと待って。どうせ帰る方向は一緒
 なんだから、お宅まで送るよ」

「えっ、でも ――」


  竜二は一向に減らないタクシー待ちの長蛇の列を
  目顔で示した。


「あれじゃあ、空車を待ってるうちにココで夜明かし
 なんて事にもなりかねんぞ。
 それに、無線タクシーにしたって似たようなもんだ」


  ……確かにそうだ。

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