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オオカミは淫らな仔羊に欲情す

第16章 卒業式、そして ~~

     
『―― 答辞、卒業生代表、森下 利沙』


  と、マイクを通した声がホールの中に響き渡る。

   「はい」 はっきりと返事をして利沙は
  立ち上がった。

  すると、後方の父兄席の方から利沙の兄や従姉妹
  達が発した、

   ” いよっ、待ってました!”
   ”りーちゃん、日本一っ!”
   ” ヒュー ヒュー!”

  等という、彼女を讃える声と口笛が周囲の人々の
  苦微笑を誘う。

  ”もう ――っ、兄ちゃんってばぁ、
  あれほど、目立たんでって言うたのにぃ……”


  隣を見れば絢音も肩を揺らし小声で笑っている。
  
  利沙は、気を取り直し、少し胸を張って
  ピンと背筋を伸ばし、しっかりとした足取りで
  進んでいった。

  そして、壇上の演説台の傍らでにこやかな
  微笑みをたたえ待っている学校長・大林と
  軽く握手を交わし、演説台のマイクへと向かった。


「―― 本日は私(わたくし)達、第65期卒業生の為
 このような心のこもった式典を挙げて頂き誠に
 有り難うございます。また、ご多忙の中をご出席
 下さいましたご来賓の皆様、校長先生始め諸先生方、
 並びに関係者の皆様に卒業生一同、心から御礼
 申し上げます。
 こうして壇上に立っていると、講堂の天井のシミや、
 窓ガラスの1枚1枚も懐かしく感じられ、私たちが
 この学校で過ごした数年間の色々な出来事が次々と
 頭の中によみがえってきます ――(中略)――
 1人1人の不安は、友と手を取り合うことで勇気と
 力に変えて、数年前と同じように胸を張って
 この門から旅立つ事こそが、私たち卒業生の使命だと
 思えるようになりました。
 困難にも勇気を持って立ち向かう為の剣と楯を
 この学生生活で得たような気がしています。
 ――(中略)――まだまだ、未熟未完成の私達故、
 卒業後もよろしくご指導ご鞭撻下さい。
 本日は本当に有り難うございました。
 皆様方のご活躍をお祈りし御礼の言葉とさせて
 頂きます。卒業生代表、森下利沙」

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