
オオカミは淫らな仔羊に欲情す
第4章 急転直下
「えっ、**先生いらっしゃらなんですか!?」
「ごめんねぇ、あやちゃん。先生今日は教育委員会の
会合でお出かけになってるのよ」
その日は登校してすぐ、事務棟1階の学生課へ
やって来た。
退学届けを書いてから色々お世話になった**先生
にだけは挨拶をしに行こうと思っていたが、
事務員さんにそう告げられ項垂れた。
「それにしてもあやちゃん、ホント辞めちゃうのねぇ。
寂しくなるわぁ」
事務員さんこと、**さんは**先生と同い年で、
こんな私にもいつも良くしてくれた数少ない人だ。
「**さんにもホントお世話になりっぱなしで。
ありがとうございました。**さんだけですよ、
そんなふうに言ってくれるのは」
再度、お世話になりました、と頭を下げて学生課を
出た。
腹を括ってここまで来たけれど、拍子抜けだ。
**先生へのご挨拶は手紙で
済ませるしかないかな。
「―― あ、アキ達にも会っておこう」
今日は*曜日。
1~2限は体育だから、
きっともう更衣室にいるよね。
更衣室は全学年ひとつの同じ更衣室を使うので、
時間がかぶる日はとても混む。
賑やかな笑い声が漏れる更衣室の扉の前に立って、
ノックしようと手を挙げたその時だった。
『―― 私、さっき事務棟で和泉見たんだ~」
『って、和泉絢音?』
『あ~、A組のサセ子でしょ?』
そんな冷たい口調に、思わず
ドアの前で固まってしまった。
『そ~言えばアキと菊ちゃんって、あの子と
仲良かったよね』
『やめてよ~。中学時代からの腐れ縁なだけよ』
どくん。
胸がひとつ大きく鼓動して、
体の末端が凍りついていく様な感覚に陥った。
『そうそう。あの子のお母さんって覇王プロにコネ
持ってるから、**のライブにもサイン会にも
優先で入らせて貰えてたし、スター予備軍っぽい
イケメンまで紹介して貰えてラッキーってやつ』
『けど、あの子が長期欠席してたのって、子供堕ろした
からだって、アレ、ホントかな』
『ん、ほんとらしいよ』
『で、家族とも折り合いが悪くなって、東京の親戚の
家に預けられる事になったんだって』
『何それ、超ウケるぅ~』
