
オオカミは淫らな仔羊に欲情す
第5章 新天地・東京へ
上京して今日でちょうど2週間。
姉ちゃんに言われた”珠ちゃん”こと、
珠姫叔母さんの所へは、まだ行っていない。
自分の力でどこまで生活出来るか?
試してみたかったからだ。
でも、昨日遂に預金の残高が、2千円を切った。
多少 ―― いや、かなりかな?
年はサバ読んだけど、昨日まで何の問題なく
働いていた派遣の会社から ――
『あ、来週から来なくていいわ。お疲れさん』
って、一番恐れていた”派遣切り”勧告。
お先真っ暗とは、こんな事を言うんだろう ――
って人事みたいに感じている、今日このごろ。
真っ暗すぎて、もうどうしたらいいのかさえ
分からない。
なのに、実家の父からは数時間おきに電話があって
『――絢、もういい加減強情を張るのは止めて、
こっちへ帰って来い。爺ちゃんも婆ちゃんも
理玖達もお前がいなくて物足らんと、寂しいと
言ってる』
姉ちゃん曰く、一番寂しがっているのは、
頻繁に電話をかけているお父さんだそう。
私は年齢詐称でやっとありついたバイトをクビに
なって、さっきまで全世界の不幸を一身に
背負っているような気で、めっちゃ落ち込んでた。
でも、いつもと変わらない家族の声を聞いて、
ほんの少し気分も上向いた。
そんな自身に発破をかけるって気合いで、
ポケットの中のありったけの小銭で買った缶ビール
で、すっかり酔っ払ってしまい……。
気が付いたら、知らない小父さんに促されるまま
ラブホの廊下を歩いていた。
