
オオカミは淫らな仔羊に欲情す
第6章 新しい日常
車に乗ってから気が付いた。
ココ、下手したら、私のおんぼろアパートよか
居心地がいいかも……。
でも、この車はドイツの高級車・メルセデス・
ベンツ。
こんな冴えないおっさんに、こんなマイカーを
持てるお金があるとは思えない。
そっかぁ、公用車? きっとそうだ!
「―― あの辺りに住んでるの?」
おっさんは運転しながら絢音に話しかける。
「うんにゃ、アパートは新大久保。あそこはバイト
してるカフェがあるの」
「ふ~ん、そっかぁ」
沈黙…………
何か喋らないと……あまり騒々しいのは嫌だけど、
沈黙は好きじゃない。
「……おっさんは、確か……この前、珠姫さんと
ホテルにいた人、だよね?」
絢音はおっさんに問うた。
「……おっさん?」
少し『間』が開いて、絢音を横目でチラリと見た。
この反応……
「おっさん……じゃなかった?」
「……一応、今年33」
33? 自分よりひと回り上だけど、
まぁ、おっさんじゃあない、かな……
「あ ―― すんません」
「しかし、こんなオレの事覚えてくれてる女子が
いたなんて意外だ」
えぇ、あんたはそりゃもう、色んな意味で
インパクト大ですから。
それから、学校の事を中心に取り留めのない話しを
しているうち学校の正門に着いたので、
車を出てドアを閉める前におっさんへ礼を言った。
一応、送ってもらったんだから、礼儀はちゃんと
しなくちゃね。
「ありがと。おっ ――、いえ、小父さんも
仕事頑張ってね」
ドアを閉めて学校の敷地内に走り込み、
校舎へまっしぐら。
どうか遅刻してませんように!!
絢音は祈る気持ちで昇降口へ飛び込んだ。
