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貞勧

第2章 あとがき

静岡県下田市に行くと必ず目にするのが坂本龍馬とお吉である。

坂本龍馬は脱藩して下田まで逃亡していた時期がある。お吉が眠る宝福寺は勝海舟と山内容堂が会見して坂本龍馬の脱藩が許されることになった場所でもある。

宝福寺は、坂本龍馬にまつわる史跡であるとともに、お吉の墓があり、お吉記念館がある。

毎年お吉の命日である3月27日に行われる供養祭の折りにはお吉記念館が無料となり、各種イベントも行われる。

下田市街地の外れにはお吉が営んだ安直楼が当時のままに残っている。安直楼はしばらく入店ができなくなっていて外観の見学のみだったが、2017年から再び入店ができるようになっている。

また、柿崎にある領事館だった玉泉寺にはハリス記念館がありハリスとお吉の暮らしが今に語り継がれている。

下田の街でハリスやお吉を感じて過ごしてみるのもいいだろう。

お吉の物語は何回か映画や舞台になって語り継がれている。決して忘れてはならない物語である。この物語からは人間の弱さや醜さが感じられる。

鶴松のように大金と出世に魂を奪われて愛を売る者もいれば、街の人々のように異国の人間を差別し、大金を手にしたお吉をうらやみ、やがてそれが憎しみへと変わる者たちもいる。

運命に弄ばれるように時代の迷子となったお吉だが、本当の迷子は弱さ故に心を失くした鶴松や街の人々なのかも知れない。

お吉は辛い目に遭いながら何故下田にい続けたのであろうか。他の街で暮らせば運命は違っていたのかも知れないのに。

お吉は下田の街や海を愛していたのだろう。鶴松との幸せな日々、ハリスとの愛に溢れた日々、下田にはそんな美しい記憶が刻まれている。
今もお吉の魂は下田にいるような気がする。

本作は唐人お吉の物語を参考にアレンジを加えてあります。
風鈴のくだりはお吉の物語にはないし、ハリスと互いに持って呼鈴代わりに使っていたのは風鈴ではなくギヤマンのグラスと伝えられています。

唐人お吉の物語と読み比べていただいて、できれば下田に行ってお吉やハリスを感じていただければさらに楽しめると思います。
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