幸せの欠片
第5章 衝動
「出なくていいの?」
また、同じ事を尋ねられる
「…いい」
この電話には、もう出ないと言ったんだ
あれで諦めたとはさすがに思ってはいなかったけど
何で、今
このタイミングで掛かってこなければいけないんだよ
訝しげに俺を見つめる相葉さんの顔が見られない
頑なに出ようとしない俺を、不審に思ってるのが伝わってくる
そして
なかなか鳴り止まない振動に苛立ちが募った
「かず…」
「分かった。出るから。……だけど」
“ここにいて。だけど会話は聞かないで“
俺の初めての無茶苦茶なお願いにも関わらず
相葉さんは小さく頷くと、その顔を窓の外に向けた
「掛けて来るな、って言いましたよね」
《通話》をタップするなり俺の口からは吐き捨てるような声が出ていた
『了承すると思うか?』
「まさか」
父親なんだ。簡単に引き下がる性格ではない事くらい承知している
「けど、言いましたよね?俺は行かないって」
『…時間がない』
「俺には充分ありますよ?」