幸せの欠片
第1章 雨やどり
それからはとくに何かを話す訳でもなく
二人で並んで雨を見つめていて
「「あの…」」
ほぼ同時に向き合い、そのぴったりのタイミングにお互い吹き出した
「お先にどうぞ」
また、柔らかく俺に微笑み掛ける
「あ、えっと……」
何を言おうとしたんだっけ
いや、用があったんじゃない
何となく、沈黙がいたたまれなくなっただけだ
「いえ、いいです」
だから
何て言って良いか判らなくて、小さく首を振った
「じゃあ、俺から言いますね。…これ、暫く止みそうにないから」
“そこで飯でも食いませんか?“
知らない人間と話すのは勿論
そんな誘いに乗るのだってまず有り得ない筈なのに
誘われるままに付いて行ったのは何故だったのか
「相葉雅紀」と名乗ったその人の温和な雰囲気なのか
それとも、たまたま自分がそんな気分になっていたのか
ただ
この出会いが、俺にとって人生最大の出来事だったのは
間違いのない、事実でもあったんだ