幸せの欠片
第1章 雨やどり
無意識に、目を閉じていた
どのくらいそうしていたかは分からないけれど
ふと目を開けた時、隣に誰かが立っている事に気付いて
一瞬、身体がびくりと震えた
全然気付かなかった
いつからいたんだろう
人がいる気配は、多分雨に掻き消されていて分からなかった
ってか、微妙に近い
何故この人はわざわざ俺の隣に立っているのか理解に困った
さりげなく離れようと、足を動かしかけた時
「…雨、止まないね」
唐突に、その人が俺に視線を向けた
周りに誰もいないから、その言葉が視線通り俺に向けられたものだと言う事はすぐに理解した
「え?」
「ずっと、ここで立ってたね。雨宿り?」
穏やかな微笑
その柔らかい微笑みは
不思議と警戒心を俺に持たせる事がなくて
普段なら知らない人間とは口を聞かない筈のない俺が
「傘、持ってなくて」
自然とその質問に答えている事が自分で信じられなかった
「俺もね、同じ」
“降るなんて言ってなかったから“
柔らかい笑みが苦笑に変わる
それにつられて、思わず俺も苦笑していた