幸せの欠片
第12章 その先へ
「さっきの買い物、それだったの」
帰りたくない、と言った時
予想通り“何も支度してないけど…“ と困惑する相葉さんに
顔は上げないままさっきのコンビニの袋を鞄からだして、目の前で見せた
あさましい、と嗤うだろうか
何を考えてるんだ、と蔑むだろうか
相葉さんの言葉には、どんな感情が含まれてるのかは
顔を見ないから分からない
見ないんじゃない
見られないんだ
言ってしまった言葉もそうだし、“用意しました“ と見せたそれも
殆ど衝動的と言うか、深く考えずに行動していたから
少し冷静になった今、恥ずかしいなんてもんじゃなくて
「かず」
優しく俺を呼ぶ相葉さんに、思わずギュッとジャケットを握る手に力が入った
何を言われるのかと、固く目を閉じた俺に訪れたのは
駄目だ、とか 分かった とかの言葉じゃなくて
ほのかに香るコロンと、身体を包み込む柔らかいぬくもりだった
「…なにやってんだよ」
呟くように言った相葉さんが、片手で俺の頬に触れる
ゆっくりそこを持ち上げられ、初めて相葉さんと視線を合わせた