自分であるために
第8章 アンタがいるから
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あれから薫とは、このラブホテルで会って、薫を女の子にチェンジさせて出かけたり、のんびりしたり……が定番となっていた。普通の男女ならそういうことになってもおかしくはないのかもしれないが、俺たちは一度もそういうことになったことはない。
だけど、少しずつだが、自分に対するコンプレックスは落ち着いてきたような気がする。だからと言って、このままでいいわけではない。
薫とずっと一緒にいる理由。お互いを認め合えるから。それは、きっと薫も同じだと思う。
「きょ~う、くん! 何、ぼんやりしてんの?」
「ううん、何でもない。薫と知り合ってから楽しくなったな~って!」
俺は笑う。嘘はついていない。
「そっか! 今日のお洋服は何?」
薫が嬉しそうに聞いてくる。俺は、トランクからアリスを連想するサックスのエプロン付きワンピースに水色と白のボーダーのニーソックス、青のカチューシャを取り出した。パニエはもちろん付属+2枚重ねのふわっふわ。
俺は、アリスをエスコートする白ウサギ風皇子コーデだ。
「わぁ! 可愛い! 今日のおデートにぴったりだね!」
「デートって……」
「え、違うの?」
「あ、まっ……まぁ」
薫がそう思うならそうなのだろう。それ以上はつっこまないことにする。薫の気持ちは知っている。けれど、今は、どう扱っていいかまだ分からない。