自分であるために
第8章 アンタがいるから
薫は、嬉しそうに買ったものが入ったカバンを抱き抱えながら、興奮冷めやらぬように、会場で売られていた作品について、語っていた。
「あっ……」
会場の最寄り駅についた時、一人の女に目がいった。高いヒール。ガーリーな花柄のワンピースに身を包むポニーテールの女。忘れたくても忘れられない嫌な思い出。
「何々? 知り合い? なら、話そうよー」
「いいよ、いいよ」
「でも、せっかくだしー! あのー、そこのお姉さん?」
上機嫌な薫は、俺の表情に気づいていないようで、強引にその女のところに俺を連れて行った。
「はぁ? あんた誰? って……こんな男女(オトコオンナ)の気持ち悪いの知りません。顔も見たくないのに話しかけないで!」
そうーー、この女は俺が昔、告白した人。俺のかっこいいものが好きという好みを受け入れてくれた。毒系イベントや展示にも付き合ってくれて、俺を受け入れてくれた。そう思って、俺はこの女のことを好きになった。
彼女ならきっと分かってくれる、そう思って告白したのに投げられた言葉はあまりにも残酷で。
気持ち悪い。キモチワルイ。俺と仲良くしてたのは、俺に多い男友達と仲良くなるのが目的。ただの計算。そんなことを平然と言ってのけた。それ以来、恋愛が怖くて出来ない。好きになった人に振られるのは、仕方がないにしても、それはあまりにも……。忘れたくても忘れられない出来事で。あぁ、楽しかったお出かけの最後になんでこんな……。気づけば、地面に小さな水滴の滲みができていた。