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自分であるために

第10章 俺は俺

 あれから薫がゴタゴタしていて、なかなか会えずにいた。

 夏休み。俺は、飲食店のバイトに明け暮れた。ここの飲食店のバイトにした理由は、単純。制服が黒のズボンで、髪型も短くて大丈夫だからだ。

 前に出るのは嫌だから、キッチンで入った。仕事内容は大変だが、それなりになんとかやれている……と思っていた。普段は、夜シフトなのだが、夏休みはお昼が多く、お昼といえば、当然、主婦層であり……。なるべく関わらないようにしていたのだが、ある日。

「ねえ、都さん? ーーさんって、ホントとろいわよね! やる気あんの?って感じー。ぎゃはは!」

「新人さんだから仕方ないんじゃないですか? 頑張ってると俺は思いますよ?」

「あらぁ~。都さんって見た目の割にいい子ちゃんなのね~。つまんないわ~。それに、そのしゃべり方、男の子みたいで、ちょっと……。もうちょっと女の子っぽくしたほうがいいわよ~」

 お局のその言葉に周りも笑う。俺の中で何かがプチンっと弾け飛んだ。

「女同士の仲良しごっこなんてうんざりなんだ! 誰かを悪のように蔑むしかできないなんて、いい年した大人がカッコ悪いですよ! 俺を巻き込むな!」

 ……やってしまったと思った時には全て言い終わってしまった後で遅かった。店に居づらくなり、夏休み中にバイトを辞めてしまった。

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