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自分であるために

第12章 自分であるために

「真守さん!」

「ちょっと、アタシの彼になんの用ですか!」

 奥から聞こえるオーナーのダーリンさんの声とともに入り口から聞こえてきた懐かしい声。

 薫とは、お互い忙しくて、時間も会わず、数ヵ月に一回ペースと、なかなか会えずにいた。メールはしていたが、電話嫌いな俺なので、電話をすることもあまりなかった。

「あらあ、可愛い、彼女さんがいたのね。それは、失礼しちゃったわ。あなた、大切にしなさいよね!」

「もちろんです」

 薫は、赤の大人っぽいワンピースに黒のパンプスを履いていた。あの時、セミロングだった髪は、巻いていて、今ではストレートにしたら腰くらいまであるのではないか? という長さだ。

「お待たせ!」

「ほんとだよ」

「これからはずっと一緒にいれるね」

 そう言って、抱きついてくる薫は、この場所にいるどの人よりも可愛くて、思わずキスをした。

「そうだな。この後、俺の家に来る? やっと一人暮らしを始めたんだよ~」

「もう、京ったら変態っ!」

 オーナーが何かを言っているが俺の耳にはもう何も届かなかった。好きな人が夢を叶えて、今、目の前にいる。それがこんなにも嬉しいことだと、この瞬間、生きてて良かったと本気で思えた。

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