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幸せの欠片 *超* 番外編

第5章 そしていなくなった


電話越しの上司が何か言ってるけれど、一方的に通話を切った


早く

1秒でも早く、帰らなきゃ


どうしたって拭えない焦燥感が頭を支配する


いなくならないで

“お帰り“ って、笑って出迎えて



走りながらそう考えしまうのは

……やっぱり、本能で感じているのかも知れない



******


こんなに走ったのなんて、学生以来だ

まともに呼吸なんか出来やしない

足もガクガク震えている


それでもかなりの早さで辿り着いた我が家に必死に息を整えた


祈るような気持ちでドアに手を掛け、開かない事を確かめてから、改めて鍵を差し込んでいく

カチ、と音がして鍵が開き

祈るような気持ちでゆっくりとドアを開けた



静まり返る室内に、嫌な汗が流れる

“おかえり“ の声が、…ない



「かず…?」

重くなる足を引きずるように中に入る


短い廊下を抜けて、リビングのドアを恐る恐る開ける



ー…ああ、やっぱり



かずの姿は、どこにも見当たらなかった










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