
溺れてみたい
第1章 一
「おい、着いたぞ」
西暦2100年。8月。うるさい蝉の鳴き声に、不機嫌な男の声が混じって、寝ていた私を無理矢理起こした。
乗せられていた、トラックの荷台。
冷房はおろか直射日光に照られされ、日焼けして全身ヒリヒリする。
「……ああ」
ここ何処だろう。
日本だよね?
船や飛行機に乗ってないから、それは確実。
でも何故、今の日本にこんなお屋敷が―――
「デカっ……」
森の中に聳え立つ洋館。
もしや、避暑地の別荘か?
外にはプールもある。
私は荷台から下りながら目の前の洋館を眺め、唖然と立ち尽くした。
「お前の仕事は分かるな?ここの住人達に奉仕するんだ」
さっきまで運転していた男が話し掛けてくると、無言で頷く。
……奉仕。
それが私がここへ売られてきた理由。
これこそ、今の日本の縮図。
10年程前から日本経済は悪化し、回復の糸口は見えず、仕事につけない人間が増えた。
人身売買は当たり前。
生活の為に子供を富裕層へ売り付ける家庭が出てくると、皆真似した。
