ペンを置いた日
第1章 忘れないで
男は驚いて、その場に尻餅ついた。
どうして、だとか、本当に彼女なのか、だとかいう感情も吹き飛んで、ただただ唖然、呆然、幻覚を見ているものだと思い、目を擦る。
顔を振って、もう一度部屋の奥へと目を通しても、やはり少女はそこにおり、男の方を見つめている。
なにも言わずに、じっと。
ただじっと、見つめている。
男は、部屋に入り、扉を閉め、電気もつけぬまま、少女に近づいた。
少女は鉛筆を握り、紙に漫画を描いていた。
拙く、汚い絵と文字で、物語も感じない、一目見て本を置いてしまうような漫画を。
だがそれはよく見れば、男が初めて描いた漫画によく似ている。
同じものではないが、酷似していた。
「君は、僕の描いた、あの娘なのかい?」
男は少女に、話しかけていた。
つい、うっかり、どうしようもない感動と呆れの感情を抱いて、話しかけていた。
きっと幻覚なんだと分かっていても、どうしても男にはそうは思えなかったからだ。
「...そう、です。私、あなたに描かれたキャラクターです」
少女は、そう言った。
とても切なそうに、涙をこらえたかのような声を漏らして。
少女は立ち上がった。
立ち上がり、男を見上げて、泣きながらも笑った。
「ようやく、戻ってきてくれたんですね。私たちを、夢を描いてくれる気になったんですね」
「それは......描かない。僕は、もう漫画は描かない」
男は、少女の言葉を否定した。
それは、過去の自分を否定したのと同じ、嘘まみれの言葉で、言いたくも思いたくもない言葉だった。
「僕は、漫画なんてバカみたいなもの、嫌いだから」
どうして、だとか、本当に彼女なのか、だとかいう感情も吹き飛んで、ただただ唖然、呆然、幻覚を見ているものだと思い、目を擦る。
顔を振って、もう一度部屋の奥へと目を通しても、やはり少女はそこにおり、男の方を見つめている。
なにも言わずに、じっと。
ただじっと、見つめている。
男は、部屋に入り、扉を閉め、電気もつけぬまま、少女に近づいた。
少女は鉛筆を握り、紙に漫画を描いていた。
拙く、汚い絵と文字で、物語も感じない、一目見て本を置いてしまうような漫画を。
だがそれはよく見れば、男が初めて描いた漫画によく似ている。
同じものではないが、酷似していた。
「君は、僕の描いた、あの娘なのかい?」
男は少女に、話しかけていた。
つい、うっかり、どうしようもない感動と呆れの感情を抱いて、話しかけていた。
きっと幻覚なんだと分かっていても、どうしても男にはそうは思えなかったからだ。
「...そう、です。私、あなたに描かれたキャラクターです」
少女は、そう言った。
とても切なそうに、涙をこらえたかのような声を漏らして。
少女は立ち上がった。
立ち上がり、男を見上げて、泣きながらも笑った。
「ようやく、戻ってきてくれたんですね。私たちを、夢を描いてくれる気になったんですね」
「それは......描かない。僕は、もう漫画は描かない」
男は、少女の言葉を否定した。
それは、過去の自分を否定したのと同じ、嘘まみれの言葉で、言いたくも思いたくもない言葉だった。
「僕は、漫画なんてバカみたいなもの、嫌いだから」