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イチャコラミックス

第5章 精霊彼女の良い土

「あの、お仕事が…」
アゼットが焦る。
「今日は俺もいるから大丈夫だよ。」
次朗が「だからどうぞ」と香田とアゼットの背を押した。


パタン
扉が閉まる音がやたら大きく聞こえる。
全身の感覚が研ぎ澄まされている。

「なんだかすみません。皆さん急にどうしてしまったんでしょう。」
アゼットはオロオロと部屋の中を動き回っている。
香田の中では改めてこれまでの事が走馬灯ののように(うそ、やだ死んじゃう)…いや、めくるめく日々を思い起こし、アゼットを見た。
ついこの間までなんとも思っていなかった。
それがいつの日からか…きっかけはどこだったろう。分からない。店に訪れる度、気遣うように声をかけてくれたり笑顔を…ってそれは他のお客にもそうだし。なにか特別なこと、自分だけに特別な…だめだ、何も思い出せない。思い出せないけど…。

目の前の彼女が愛おしくて仕方ない。

「はぁ…そうですわね、せっかくですから。」
と、アゼットはソファに座った。
香田も座るよう促す。
「わたくし、香田さんに伝えたかった事があったんです。なかなかお店では言えませんから。」
お、とうとう来たか。
告白される、そういう流れだとおもうじゃない?
「エレミム様のこと、気にかけてくださってありがとうございます。エレミム様ったら香田さんに凄く懐いてらして…。今までそういう方はいらっしゃらなかったので。」
「あ、いや…俺は別にそんな。」
お約束のような流れだった。
「俺は何も。エレミムが懐いてくれてるのは分かるけど…あの、正直に言えば俺はまだ。ごめん。」
それを聞きアゼットが眉を八の字にして微笑む。
「…えぇ、そうですよね。そう思われても仕方ないと、思っています。」
「ごめん…。頭では分かろうとしてるけど」

そりゃそうだよね。
ついこの間まで人類滅亡を企ててたんだよ。
実際にその部下は過去何人も手にかけたわけだし。そんな簡単に許せないに決まってる。

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