Hello
第38章 櫻井くんと俺ら①
Jun×
たくさんの後輩に慕われている翔くんだけど、当日だけは絶対譲らない!と、翔くんの誕生日のスケジュールはだいぶまえからキープしていた。
夕飯の下準備も、ケーキの用意も昨日のうちにバッチリに仕上げて。
あとは、誕生日当日の今日、二人でまったり過ごすだけ……のはずだった。
なのに。
「すみません、松本さん。ちょっと先方の都合で今日の晩、今度の番組の打ち合わせ入ります」
マネージャーくんの申し訳なさそうな顔に、飲んでた水を吹き出しそうになった。
……げ。
「えっと……それさ、別の日にまわせないの?俺、予定あんだけど……」
マネージャーくんが、戸惑うような顔になった。
だよね。
仕事があるのは、ありがたい事だし、こんなイレギュラーは日常茶飯事だし。
いつもなら、俺はこんな文句はいわないし。
……でも、今日だけは譲れねぇ!
俺の目力に、スマホをすごい勢いでスクロールしていたマネージャーくんは、汗をかきながら、
「……なんとか早い時間から組むようにしますが、日にちがどうしても……」
と、ごにょごにょ言った。
「……」
マジかよ。
俺はため息をつく。
でも、仕事は仕事だ……しょうがないよな。
「分かったよ。できるだけ早く設定して?」
チャッチャとすませて、ダッシュで帰宅だ。
『ごめん、急遽仕事。早く帰るようにするから、先帰ってて』
《了解。頑張れ》
ラインで状況を送ると、すぐに、入ってきた返事に、ホッとする。
そうしてテレビ局に向かうべく、俺は身支度を整えはじめた。
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マンションのエントランスを早足で駆け抜けながら、腕時計を確認したら既に10時だった。
打ち合わせが長引くという、最悪の状態。
しかも、送りの車内で何回かラインを送ったが、いずれも既読がつかない状態。
これ、怒って帰っちゃったパターン??
いやいや、翔くんに限ってそんなことは……
考えれば考えるほど、悪い想像しか浮かばなくて。
俺は焦って取り落としそうになる鍵を必死で握り、自宅扉をあけ、中に飛び込んだ。
「ただいま!!」