Hello
第38章 櫻井くんと俺ら①
翔くんの靴は……ある。
とりあえず帰ってないことにホッとするも、ありえないくらい家のなかはしんとしている。
「翔くーん……?」
呟きながら靴を脱ぎ捨て、廊下を走り、リビングの扉を体当たりするようにあけた。
すると、テーブルに投げ出した腕に頭をのせ、すやすやと寝ている翔くんが目に飛び込んできて。
見渡せば、そのテーブルには、俺んちの一番デカイ皿に豪快に盛られた揚げ物や、サラダ。
「……」
台所は見たところ使った形跡がないから、テイクアウト商品だろう。
夕飯用意してくれたんだ……
主役になんてことさせちまったんだ、と思いながら、翔くんの肩を軽く揺すった。
「翔くん……ただいま」
翔くんの、瞼がふるっと一瞬震えて。
その大きな瞳があく。
「……あ……本気で寝ちまってた……」
ヨダレを拭う仕草に笑いがこぼれた。
「ごめん……遅くなって」
「仕事だろ。いーよ。それより見て!」
「なにこれ。用意してくれたの?」
「にのに聞いた。今、なんでも配達してくれんだね」
おまえの大好きなカニクリームコロッケだぞ、と得意そうに言うから、いや、主役はあなただから、と突っ込んだ。
「俺の好物買ってどーするんだよ?」
あ、そーか、と頭をかくところも、いとおしくてしょうがない。
「も、いーじゃん。早く食おうぜ。俺、もう腹ペコ」
翔くんは、そう言って屈託なく笑い、ビールのプルをあけて、グラスになみなみと注いでくれた。
ほんとは牛肉や、ワインを用意していたけれど。
ほんとは翔くんが主役なんだけど。
翔くんが用意してくれた優しい夕飯を遠慮なくいただくことにしよう。
「あっ……ばか、そこっ……」
「ここ……?」
「……んっ……」
男前な翔くんも、ベッドのなかでは豹変する。
俺の手つきに乱れていく様は、他の誰にも見せらんない。
俺だけ……、俺だけだよね?
立てられた足を抱え直し、再度後ろに刺激を与えようと、指に力をこめかけたら、
「……こら…今、別のこと考えてたろ……?」
はあ……と熱い吐息をもらしながら、下から俺の顔を両手で包みこんでくれる。