Hello
第43章 ☆☆ * 大宮
Satoko
いい匂いのする厨房を、ひょこっとのぞく。
明らかに夕飯の匂いとは違うそれは、甘くてわくわくする香りだ。
白い調理服を着て、洗い物をしている背の高い人物をみつけて、俺は声をかけた。
「カトリーナ?できた?」
「ああ、姫様。さっき焼けましたよ。ちょうどよい頃合いです」
カトリーナは、トレーにのせた黄金色のケーキを、はい、と俺にみせた。
厨房の責任者である、カトリーナは、昔からわが城に仕えるシェフ。
彼のお父さんもおじいちゃんも、そのまたおじいちゃんも、みんなみんなこの城で、俺たち王族の食を担ってきてくれてる。
今、現役で働いてくれてるカトリーナは、背が高くて、ごつい体つきのくせに、手先は器用で。
豪快なパーティー料理から、繊細なお茶菓子まで、彼の魔法のような手にかかれば、なんでもできちゃうんだ。
大きな口をあけて笑うこの人は、女のような名前をもつ、この城になくてはならぬ男だった。
俺はカトリーナが昔から大好き。
俺に絵を教えてくれたのもこの人で、家庭教師とは違う学びを、たくさん教わった。
俺のわがままも、ミヤの次くらいに聞いてくれる男だ。
……でもって。
毎年無理に言って、この日は夕食のあとのデザートにって、小さなケーキを焼いてもらってる。
甘いものが苦手なあいつのために、砂糖をひかえめにした特注品。
「生クリームは……いらないんでしたか?」
「飾りにちょっとだけ使う。フルーツは?こんだけ?」
「そちらにあるリンゴのコンポートを薄く切ったものなんか、いかがですか?」
「悪くないね」
それから俺は、カトリーナが用意してくれた食材を使って、このケーキにデコレーションをする。
これも毎年のこと。
あいつが嬉しそうに笑う顔が見たくて、俺は心を込めてクリームを飾るんだ。