Hello
第43章 ☆☆ * 大宮
Miya
夕食のあとに、サトコ様のために紅茶を用意するのは俺の役目。
でも、毎年この日だけは、俺のティーカップも用意しろと命令される。
俺は戸棚の一番奥にある、俺のためにサトコ様が用意してくださったティーカップを取り出した。
サトコ様は、ブルー。
俺はイエロー。
この繊細なつくりのティーカップは、1客だけでも美しいのだが、2客あると、その対比がより美しい。
サトコ様お好みの茶葉を用意しながら、カップをあたためていると、サトコ様が得意そうな顔で、ジャーン、と言って現れた。
トレーを心もち、持ち上げ、うふふ、とそれはそれは楽しそうな笑顔。
俺を喜ばせたいらしいけど、俺はあなたのその笑顔だけで、十分幸せな気分にさせてもらってる。
「ほら、みて。ミヤ。今年はカトリーナのリンゴをのせたよ」
もともと器用な姫様だ。
シェフの作ったものを組み合わせて、毎年クオリティの高いケーキを作ってくださる。
甘いものがあまり得意じゃない俺も、たべれるようにって、甘さもひかえめにして。
今年は、リンゴやベリーをのせたカラフルなフルーツのケーキ。
確か去年はチーズだった。
サトコ様は、こうやって毎年毎年、俺の誕生日を祝ってくれる。
主人と付き人の立場で二人きりでお茶をしていても、誰も何も言わない日だから。
だって、もとをただせば、本来は幼馴染みな俺たち。
だから、他の侍女たちに見咎められることのない特別な日でもあるんだ。
俺は、カップに琥珀色の紅茶を注ぎ、テーブルに座るサトコ様の前に静かに置いた。
そして、俺も向かいの椅子をひいて座った。
「ミヤ、誕生日おめでとう」
「……ありがとうございます」
「食べて。ねぇ、おいしい?」
せかすように言って、キラキラした目で見られるから、思わず笑ってしまった。
「……とっても」
「よかった」
にこっと笑って紅茶を飲むサトコ様。
俺は、あなたのそばにいられるだけで幸せなのに、時々とても欲張りになる。
俺はミヤのものだよって言ってくれるけど、俺たちは、おおっぴらにはできない関係だから。
キスして抱き締めて。
あなたは俺のものって、無性に確かめたくなる。
「ね、ミヤ。今夜来てね?」
サトコ様も同じ気持ちなのかな。
「……必ず」
……今日はあなたを寝かせないよ。
fin.