Hello
第44章 可愛い人は *山
Sho
智くんの地元で、お祭りがあると知ったのが、今朝のことだ。
ちょうどオフだった智くんと、昼過ぎで仕事を切り上げることができそうだった俺。
朝御飯のトーストを二人でかじりながら、久しぶりに、どこかで外食しようか、と相談してるときに、スマホを弄っていた智くんが、あ……と、呟いたのだ。
「どした?」
「……メール。母ちゃんから」
「……なに?」
ビヨーンとのびたチーズを、あちあち、とハフハフ食べながら、穏やかな顔の智くんを見つめた。
「うん……今日地元でお祭りがあるんだって。懐かしいな、毎年行ってたんだ、俺」
「へぇ……」
「花火もあがるから、写真送るわねって」
「そっか」
花火かぁ……長いことみてないな、と思いながら、コーヒーでパンを流し込み……ふと思い付いた。
「行く?」
「……へ?」
智くんはパンをかじりかけたまま、きょとんと顔をあげた。
……可愛いな。
俺は、にやける顔をおさえながら、もう一度言った。
「(笑)その祭り。行こっか」
智くんはみるみる難しい顔になり、首を振った。
「……本気?バレて騒ぎにでもなったら……」
「どーせ暗いだろ。変装していけばいいじゃん」
さらりといった俺に、智くんが嫌な顔をした。
いつも鈍感なくせに、こういうときは勘がいい。
「……まさか」
「うん。そのまさか」
にこにことうなずいたら、智くんはすごい勢いで首を振った。
「……無理。絶対バレる!だいたい翔くんどーすんの」
「俺は、私服と帽子でいーじゃん。男二人の方が目立つだろ。片方、浴衣姿の彼女っていう組み合わせなら、きっと山ほどいるから目立たないよ」
「……サトコになれってんだろ?でも、浴衣なんかもってないし、着れないじゃん」
「俺の友達に口の固い美容師がいる」
美容師のあいつなら、ウィッグをつけた髪の毛の扱いや、メイクも、お手のものだしね。
そう伝えると、納得のいかない智くんは、それでもしばらくぐずぐず言ってたけど。
「楽しみだね。お祭りなんて俺も久しぶり」
俺がだめ押しのように言うと、智くんは……しぶしぶ頷いた。