Hello
第44章 可愛い人は *山
Satoshi
……この浴衣ってのは、苦しいし暑いし、女の子って、なんでこんなの着たがるのか理解に苦しむ。
結んだ帯を、整えてもらいながら、なんでこんなことになってんだ?と考えてしまった。
祭りに行くだけなのに……俺、やっぱりこんな格好する必要ある??
美容師である翔くんのお友だちが浴衣まで用意してくれて。
俺たちの悪ふざけにも大真面目に対応してくれて、俺は今流行りだとかいう、青を基調にしたレトロモダンな浴衣を着せられて。
一見したら俺とは分からないメイクとへアセットまでしてもらって。
出来上がりを姿見でみて、ほぇー……化けた、と
感心していたら、猫背と、がに股だけは気をつけてください、と苦笑いされた。
これなら、暗闇でみたら、それなりにみえるかな?
でもやっぱりおかしいかなぁ……。
不安な気持ちのまま、はきなれない下駄をはき、覚束無い足どりで、美容院の通用口から外に出たら、車で待機してた翔くんの鼻の下がこれでもか、とのびて笑っちゃった。
イケメンが台無しだよ。
「……変じゃない?」
助手席に乗り込みながら、不安な気持ちをこぼしたら。
翔くんは、うううん、と首を振った。
「……ほんと?」
CMや番組企画で、一応女装には定評があるとはいえ、俺だって40に届きそうな、一応……男。
……自分的にはどうかと思うんだけど。
でも翔くんは、いつもすごい褒めてくれるんだよね……。
まったく物好きというか、なんというか。
「完璧」
翔くんがデレデレした顔で親指をたてた。
……まあ、翔くんが、喜んでくれるなら、まあいいか、と思った。
*****
地元の祭りとはいえ、そこそこ大きな規模で、ちゃんと打ち上げ花火もあがるから、情報誌にも小さく載る。
従って、観客もまぁまぁいる。
駐車場に困ったけれど、俺の実家は、ファンの子達にばれてるから危険だ。
だから、少し歩くけど、地元の人しか知らないような裏道にある小さなコインパーキングに、車を停めた。
シートベルトをはずして、さぁ出ましょうというタイミングで、翔くんに腕をひかれた。
「お祭り。楽しもうね」
キラキラの笑顔でキスされた。
男前な翔くんを前に、自分の格好のせいか、俺は気持ちまで女の子になっちゃいそうで戸惑った。