Hello
第44章 可愛い人は *山
Satoshi
道路が混む前に退散しよう、と俺たちは小さな駐車場を出た。
翔くんは、キャップをとり、汗ばんだ前髪をかきあげながら、ハンドルを握る。
ふふ……可愛いおでこ。
じーっと翔くんを見つめてると、翔くんは困ったように笑った。
「あのさ……ただでさえいろいろ我慢してんのにそんな可愛い顔で見つめないで」
「……可愛くないよ」
俺は、ぽっと熱くなる頬を自覚しながら、うつむいた。
さっき、翔くんが、キスしながら、俺の浴衣の胸のあわせ部分から手を入れようとしたから、ぴちゃりとその手をはたいてやったんだよね。
やっぱ、ダメか~っていうから、当たり前じゃん!と怒ってやった。
「可愛いよ。女物の浴衣の着こなしも完璧だったよ」
「……そう?」
既に、裾をめくり大股を広げて座ってた俺は、思わず足を揃えた。
窮屈だったけど、翔くんがこんなに喜んでくれるなら、サトコの格好も……悪くなかったな。
外で腕組めるなんて思わなかったもん。
サトコだから、できたことだもんね。
「またデートしようか」
だから。
翔くんが爽やかにいうものだから、思わず頷いちゃった。
「……気が向いたらね」
翔くんが、お、言ったな?というように横目でニヤリと俺を見たから、俺も、ニッコリしてみせた。
クーラーの風が、そよそよと気持ちいい。
俺は、繋いだ翔くんの左手をぎゅっと握り。
ゆっくりと襲ってきた睡魔に抗わずに、目を閉じた。
どうせ、今晩もなかなか寝かせてもらえないだろうから、今のうちに寝とくもんね。
翔くんがラジオのボリュームをおとしたのがわかった。
大好きな人の車で、お昼寝。
幸せな時間って……こんな時間。
fin.