Hello
第44章 可愛い人は *山
Sho
やがて、ドンドンという音が聞こえてきて、花火の打ち上げが始まったことを知らせた。
人波も、花火の見える場所に向かう同じ方向に流れているのが、遠目からでも見て分かった。
人気のない場所をいいことに、バカップルさながら、ずっとかき氷を食べさせあってた俺たちは、その光景を見て……目をあわせた。
「そろそろ……花火見に行く?」
そう問えば。
智くんは、静かに笑った。
……その笑みの意味するところは、NO。
「いいの?行きたかったんじゃないの?」
すると、智くんは、シャバシャバになった氷を口に運びながら、にこりと笑った。
「足痛いもん……もういい。翔くんと、こうしてイチャイチャしてる方がいい」
「イチャイチャって……(笑)」
「イチャイチャでしょ?はい、あーん」
「いや、もう、これただの冷たいシロップだけど?!」
ただの紫の甘い液体を差し出されて、その圧力に俺がイヤイヤ口をあけたら、智くんはプラスチックのスプーンをぐいっと入れてきた。
「おいしい?」
「……うん、まあ甘い水だね」
クスクス笑って、楽しそうにしてる智くん。
俺は、ふとイタズラ心が芽生えた。
周りに素早く目を走らせて、誰も近くにいないことを確認して。
智くんの手からかき氷のカップをそっと取り上げた。
そして、溶けかけてる氷が入ったシロップをザラザラ口にいれ、ぽいとそのカップを放り投げた。
え?というように目を見開いて俺を見上げる智くんの、細い肩を抱いて。
つけまつげとメイクで、強烈に可愛くなってる顔にそっと唇を寄せた。
そのキラキラの唇に、自分のを重ねて。
甘い甘い液体を注入。
智くんが嫌がるように、顔を背けかけたけど、俺は、ぎゅうっと力を入れ直して抱きしめ、舌ごとシロップを智くんの口内に入れた。
「んっ……んぅ」
苦しそうに喉が動いたのを確認して、そのままキスを継続。
智くんは、しばらく体を硬直させてたけど、そのうちに俺の背中にゆっくりと指を這わせて、より深く求めるように、口を軽く開いた。
「んん……」
智くんの甘い声。
シロップのせいで、お互いの口内もめちゃめちゃ甘い。
俺たちは、しばらく何度も唇を重ねて、キスを楽しんだ。