Hello
第56章 patisserie SHO * バンビズ
Jun
画面の向こうの、我が恋人の悪戦苦闘ぶりに笑いがとまらない。
「どうして、いっぺんに全部いれるかな……」
ふふっと呟いた。
材料を前に頭をかかえてる翔くん。
順番間違えたね。
あ、ダメ!と、思わず声にでてしまったよ。
俺がそばにいたら、絶対とめてあげるのに。
もどかしい気持ちと、面白がる気持ちと。
半々な思いをかかえながら、画面をみつめる。
生まれて初めて自分でつくる、バースデーケーキという世にも恐ろしい企画に、最初は正直驚いた。
数字は強いくせに、大さじ、だとか、何カップだとかを考えるのは苦手という超不器用な彼に、果たして作れるのか、と。
案の定、画面上では、すごくざっくりした感覚の量で作り始めてる。
お菓子作りは、料理と違って、分量は正確にしないと失敗したときのダメージがでかい。
味を修正……ってわけにはいかねぇもんな。
だけど、自分でもダメな理由にちゃんと気がついて、最初からやり直そうとする翔くんを、微笑ましく思う。
俺は持ってたワイングラスを、ゆっくり傾けた。
「ふふ……可愛い」
真っ白いパティシエの帽子が、こんなにも似合わない人を俺は知らない。
だって、あなたは大きな口をあけて食べる専門でしょう。
なんなら、俺が作ってあげるものだけ食べててくれたらいいんだよ。
バースデーケーキなんかいくらでも作ってあげるのに。
画面には面白映像が次々と流れる。
「あはははっ」
お腹を抱えて笑ってしまった。
恐い映像も、べたべたなイチゴも、手際の悪さも、……全部愛しいよ。
愛しくてたまらない。
「……笑いすぎじゃね?」
俺のすぐ隣で不機嫌な顔をしてる翔くんがたまりかねたように、呟いた。