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Hello

第58章 可愛い人は③ * 山


二人で手を繋いで、人混みの一番後ろから花火を見上げる。

夜空に次々と大きく開く大輪の花に観衆がわく。


「綺麗だね……」

「ね……」


何度みても圧巻だ。

腹に響く音。
夜空に吸い込まれるようなキラキラした光。

普段見ることのない景色は、とても心を奪われる。


花火を見にここにきてるのだから、みんな空を
見てる。
従って、お忍びの俺らに気づく可能性が少ないのも、また都合がよい。

いくら変装してるとはいえ、鋭いファンはどこにでもいるからね。
智くんが不安がるから、それは言わないけど。

……と、智くんが、ギュッと繋いだ手に力をこめてきた。


「……?」


智くんをみると、彼は照れ臭そうに笑って、


「また来ようね」


と、言った。
なかなかの大声だったけど、この場なら聞こえないだろう。


……そうだね


俺は、声を出せないかわりに、笑って頷き、智くんの手を握り返した。


またこようね。


来年こそは、サトコになってもらおう。
順番だって言ったら、智くん納得してくれるかな?


赤と青のカラーの花火を並んで見上げて。


俺たちの今年の夏祭りが終わる。


fin.

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