Hello
第30章 愛しい人は * 山
Sho
兄さんの案内で、都心から離れた、海に程近い港町に車を走らせた。
一見さんお断りの、知る人ぞ知る小料理屋。
兄さんの知り合い経由で、特別に予約が叶ったそうで、旨い海の幸が食べれるとあって、俺は、テンション上がり気味だ。
上品な個室に通されて、出てくるのは俺の大好物のものばかり。
刺身、焼き物、蒸し物、どれもこれもすっごくうまい。
「うめっ………なにこれ」
ガツガツ食べてたら、
「翔ちゃん、この赤貝食べちゃって」
柔らかい笑みと共に皿を押し出されて、思わず目を輝かす。
「え。いーの?」
「うん。俺が運転できたら、お酒も飲めるのにね。ごめんね」
「んなこと気にすんなよ。………じゃ、遠慮なく」
パクリと一口で食べたら、兄さんは嬉しそうにコロコロ笑った。
小料理屋から少し降りたところは、もう浜辺で。
帰る前に、少々散歩をすることにした。
時間も時間だけに、そして場所が場所だけに、浜辺には人気もなく。
変装の必要もないと判断した俺たちは、素顔のまま、砂浜を二人で歩く。
「久しぶりだね、こうやって外を二人で歩くの」
兄さんが嬉しそうに呟いた。
そうだね、と傍らの兄さんを見下ろせば………
「くろ………」
「ん?」
「兄さん、真っ黒すぎて暗闇に同化しちゃってるよ」
「うそー」
「焼けすぎ」
「そーかなー」
のんびり自分の腕をみる兄さん。
白いのは歯だけって笑えないよ?
「でもここは白いよ」
ペロンとTシャツをめくってお腹を見せるから、俺は、苦笑いしてその手を制した。
「やめて」
「なんでよ」
「いーから」
「なんで?ほらほら。ここも白いよ」
そういってハーフパンツの腰部分を少しずらすから、慌ててその手を掴んだ。
「やめろって!」
俺の剣幕に、兄さんはきょとんとして俺を見上げる。
「………翔ちゃん?なに怒ってんの?」
「外じゃん!」
「別に………裸になったわけじゃあるまいし」
「………見られたらどーすんだよ」
「いないよ、誰も」
クスクスと笑われる。
俺は、決まり悪げに唇をかみ、兄さんから目をそらせた。