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Hello

第30章 愛しい人は * 山


ザザン………と打ち寄せる波の音。

月明かりに照らされた浜辺は思ったより明るくて。

兄さんの裸なんか誰にも見せたくないだけなんだ………分かってよ?

子供みたいな怒り方だな、我ながら、と分析してたら、俺の腕にするりと兄さんの腕が絡まった。

ドキリとして、腕を抜こうとしたら、逆にぎゅっとしがみつかれた。


「大丈夫。誰もいないって」


兄さんが楽しそうに微笑んで制した。


「………でも」

「少しだけ、ね」


そういって俺の腕にコツンと額をのせてくる。
その仕草が、きゅんとして、俺も力を抜いた。

浜辺に突っ立って、しばらく黙って二人で夜の海を眺める。


「………波の音って落ち着くでしょ?」


ポツリと兄さんが言う。


「………そうだね」


あなたが海が好きなの分かる気がするよ。


ふと、兄さんがぐいっと俺の腕を引っ張った。
ひかれるように兄さんをみれば、物欲しそうな瞳で俺を見上げてて。


外だけど………と、思いながら。
俺が、静かに顔を傾けると、兄さんは、その長い睫毛をそっと伏せた。


チュッ………と音をたて、唇をはなす。


兄さんは照れたように笑った。
俺も笑った。

外で交わすキスは、潮風とあいまって少し塩辛くて。


「………帰ろうか」

「そうだね」

「今夜は俺んち来て」

「………うん」

「仲良くしよ」

「………いつも仲いいじゃん」


クスクス笑う兄さんに、俺は低く囁いた。


「………もっと、仲良くしたい」


兄さん………智くんは、極上の笑みを浮かべた。


「………お手柔らかに」



        2018 山の日に。








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