BLUE MOON
第9章 責任
「やっと会えたね」
クスクスと笑う涼の半歩後ろに立つ彼女に手を差し出すと
「よ、よろしくお願いします」
俺の手を握り深々と頭を下げるカチコチの涼の彼女。
「こちらこそよろしく」
俺に会うって知ったのはついさっきだって言ってたな。
彼女は落ち着かせるように胸に手を当ててゆっくりと息を吐いていた。
ナチュラルメイクで髪も巻かずに黒髪ストレート、グレーのアンサンブルニットに黒い水玉模様のスカート。
俺の回りには確かにいない地味なタイプ
「いい加減座らないか?」
でも、涼には特別な存在なのだろう
「ほら、モモおいで」
穏やかなヤツだが桃子ちゃんへの気遣いを見ていると変に納得する。
椅子を引くタイミングだとか座ったときに重なる視線だとか…
「モモは何飲む?」
「涼さんは?」
店選びもそうだな。いつもなら落ち合う店は俺に任せっきりなのに
「俺はとりあえず生かな、誠も生だろ?」
「あぁ」
「じゃあ私も同じもので」
彼女が緊張しないように居酒屋にしてくれないかだなんて
「本日のおすすめは…」
「生ガキだってよ」
でも、初めて会う場所がチェーン店の居酒屋っていうのは俺が面白くないから料理自慢の個室ダイニングにしてみた。
「桃子ちゃんは涼のアシスタントなんだって?」
「はぃ、一応…」
何も言わずにサラダを取り分け始めた彼女に雅との差を見た。
「仕事楽しい?」
テーブルが皿で埋まっていくごとに汚れた皿を何気なく回収して新しい皿を配り
「楽しいですよ、忙しいですけど…」
醤油をトレーに戻し
「それよか○●商事に来てる営業どうにかなんないの?」
「話し纏まんないの?」
会話の邪魔をしないように箸を口に運んでは幸せそうに頬を緩める。
「そうだよ、営業部に戻って上司に相談しないと…って毎回。もう少しスピードアップしてくれないと時間のムダ」
「今のご時世、融資には時間を割くものなんだよ」
年は雅と変わらないって言ってたな
「桃子ちゃんは仕事の鬼と一緒だから寂しい思いしてんじゃない?」
「男の人はお仕事が一番ですから」
けど、かまってチャンで自分大好きな雅とは正反対な場所にいる彼女。
「そんなこと言っていいの?」
「いいんです」
微笑む裏に寂しさが見え隠れするけど
…なるほどな
これじゃ雅に勝ち目はないな。