BLUE MOON
第11章 ムーンロード
店の1番奥のテーブルについた私たち
「…ふ~ん」
ご令嬢はまっすぐに私を見て品定めをしているようだった。
月とスッポン、天と地、雲泥の差…
頭の中をめぐる言葉は同じ人種で同じ性別なのにこうも違うのかも思わされる言葉ばかりで
「お待たせしました」
「どうも」
きっと夏海さんも常連のお客さんもそう映っているだろうと思えた。
ご令嬢は真っ赤な爪を私に向けながらコーヒーカップを手に取ると
「なかなかね」
マスターの自慢の一杯の香りを楽しむこともなく口をつけた。
私はさっきから彼女の顔をまともに見れない。
見てしまったらまた心を苦しめてしまう。いや、見てもっと苦しめばいいのだろうか。
大切な命を二つも葬ってしまったのに自分ひとりが幸せになろうとした罰を神様はそんなにすぐには許してくれない。
だから今私はご令嬢の前で小さくなって座っているのだ。
私はゆっくりと息をして1番心が落ち着く香りを体内に吸収した。
するとご令嬢もう一度カップに口をつけて
「私たちのこと聞いた?」
話をスタートさせた。
「…」
言葉が出てこなかったので首を少しだけ縦に振る。
ご令嬢の自業自得で破談したとはいえ彼女の顔はやっぱり見れない。
「あっそ」
真っ赤な爪だけがチラチラと私の視界を侵していた。
「なら話は早いわね」
彼女は机をトントンと指で叩いて私の顔を上げさせると
「涼くんを大事に思うなら復縁は諦めて」
ストレートに言葉を紡いだ。
「そんなつもりは…」
「そういう小芝居はいらないわ。とにかく諦めて」
「…」
「もしあなたと復縁なんかしたらあの会社は人手に渡る。それじゃ困るでしょ?あなたの同僚だった人たちのためにももう一度私と婚約するように桃子さんからも説得してほしいの」
何も言えない私の目の前にご令嬢は一枚の小切手を差し出し
「好きな数字を書くといいわ」
またコーヒーを口にした。
「…安心してください」
私は無口なのに頼りがいのあるマスターと優しさの塊みたいな夏海さんを想いながら 芳しいコーヒーの香りをもう一度体内に吸収して
「桜木さんは私を選ぶようなバカな人じゃありません」
ゆっくりと言葉を紡いだ。
意地でも強がりでもない。これは私の本心
私は小切手をテーブルに滑らせて彼女に差し戻しご令嬢の整った顔をやっと見据えた。