BLUE MOON
第1章 コーヒーと花束
「桃子、明日の会議の資料はできてる?」
「10部だよね?」
この会社に入社して三年目の春を迎えた。
「悪いんだけど…」
「14時に第三会議室だったよね?」
「さすが」
親指をグッと立ててニコリと微笑むのは私の同期でこの営業部の植村麻里。
「あっ、白石~あんたも明日の会議に出るんでしょ?」
そして私の同期がもう一人。
「当たり前だろ。麻里が出て俺が出ないわけないだろ」
白石智也。
彼は営業部の若きエースである。
「園田、悪いんだけど…」
「いいよ、コーヒーでしょ?」
そして そんな綺羅びやかな二人に挟まれた私は、世間で一流企業と言われている会社に運良く就職することができた園田桃子。
「桃子、私も!」
「はいはい、コーヒー二つね。」
…って言っても 私は総合職の二人とは違って花形の営業担当ではなく一般職のアシスタント組。
「白石くんはブラックで…麻里は少し疲れてるから砂糖を少し入れてあげようかな」
海外のマーケティングを気にするわけでもなく ただ雑用と呼ばれてもおかしくないような仕事をこなす日々だった。
「う~ん、いい香り」
でも、その仕事も嫌いじゃない。
この営業部で働くみなさんはとにかく忙しいのだ。
さっきまで電話で話しながらパソコンを打っていたかと思いきや、次の瞬間はスーツケースをもって成田に直行…なんてこともザラで
「おっ、桃ちゃ~ん。俺にもお願いできる?」
「魚住課長!お帰りなさい」
「ただいま~」
このやり手を画に描いたような魚住課長も今まさにイタリアからの帰りだったりして。
「はい、課長。お疲れさまでした」
「ふぅ~美味しい。やっぱり桃ちゃんが淹れてくれるコーヒー飲まないと日本に帰ってきた気がしないよねぇ」
「課長、何も出ませんよ」
こんな感じで三人にコーヒーを渡し終えると
「さて、打ち込みしちゃいますか」
白石くんに頼まれていた来週の会議の資料を作成し始める。
上層階に位置するこの広い営業部の片隅で
…カタカタカタカタ
「園田さん~!コピー頼める?」
「はーい!今行きまーす!」
輝き出した月を横目に私は生きていた。