BLUE MOON
第2章 恋心
力強さのなかに優しさが詰まった彼の腕の中。
「モモは何も心配しなくていい」
私は大きな背中に腕を伸ばした。
「俺がモモのご両親の分まで大切にするから」
優しさが溢れるこの場所をこれから私の場所にしていいの?
「結婚を前提に…ってそういうことだろ?」
「チーフ…」
堪えてた涙が頬を伝う。
白石くんの言葉を借りるならチンチクリンな私。
そんな私が大人の桜木チーフのどこに響いたのだろう。
「本当にこんな私でいいんですか?」
「こんな私がいいんだよ」
髪を優しく撫でてくれる。
「モモは遠慮なく俺に甘えればいい」
「それは…」
「それが俺の願いだ」
今までの私もすべてを包み込むようにあたたかくて居心地がいい場所
「泣き虫だなモモは」
「だってぇ…」
幸せになることを拒んでいた私の心のカギが今カチャりと大きな音を立てて解いた。
ずっと閉ざしていた恋心は資料室のように埃臭いかもしれない。
でも…
「桜木チーフ…」
ちゃんと言いたい。
私は彼の胸から顔をあげるとまっすぐに瞳を見つめて
「よろしくお願いします」
素直に言葉を紡いだ。
それなのに
「イヒャイ!チーフ!イシャイれすっ!」
ギロリと睨みながらチーフは私の頬を摘まむ。
「さっきから聞いてりゃチーフチーフって!」
「イシャイれすっ!」
「二人でいるときはなんて呼ぶんだっけ?」
「りょ…涼ひゃん…」
「そうだよな?」
「…んっ」
重ねた唇にもう迷いはなかった。
「モモ…好きだよ」
「…ん…はぅ…」
この香りに包まれて私はこれから過ごしていけるんだ。
いつのまにか街中を抜け 住宅街の中にある公園の脇の道路で
「…愛してるよ」
涼さんの唇に溺れた。
*
モモを送り届けてお別れのキスを贈ると
「あの…コーヒーでもどうですか?」
この姫は
「今日は遠慮しとくよ」
どこまで俺を煽るのか。
そんな寂しそうな顔したら
「今度 肉じゃがとハンバーグ食べに来るから」
さすがの俺でも理性を保てそうにない。
「おやすみなさい」
ドアの向こうで手を振るキミに俺は年甲斐もなく心を弾ませる。
「おやすみ…姫」
次は肉じゃがとハンバーグ。
もちろん甘い甘いデザートもいただくとしよう。
問題は…次がいつになるかは仕事次第ってことか…