BLUE MOON
第2章 恋心
…ふぅ
真っ暗な海が望める海岸線に別れを告げ 街頭がやけに眩しく感じる街中を走り出した。
「話と言うのは…」
目を瞑り心のなかでゆっくりと3つ数えて
「私の両親のことです」
言葉を紡ぎだした。
「両親は私が高校生のときに事故で亡くなりました…」
私はチーフの顔を見ることなく淡々と一方的に話した。
末っ子で甘えん坊だった私が大雨の日に駅まで迎えに来てほしいと呼び出し大好きだった両親を失ってしまったこと。
そのあとは社会人になったばかりの杏子姉ちゃんが遊び歩くことなく親代わりとなって私を育ててくれたこと。
「私は軽率な言葉でみんなの人生を狂わせてしまったんです」
桜木チーフが「結婚を前提に」と言ってくれた女は人を大切な人を不幸にしてしまう女だと知ってもらわなければならない。
「だから…」
大きな会社を背負って立つであろう人にメリットどころかデメリットしかない私。
「チーフの横に立つには相応しくないと思っています」
こんなことを言いながらも私の心は桜木チーフへとだいぶ傾いてしまっている。
…でも まだ戻れる
さっき 海辺で抱きしめてくれたこと、甘くて大人の香りがするキスをくれたこと。
それを全部…素敵な思い出として
話す前はもしかして受け入れてくれるかもなんて甘いことを考えたけど チーフは相槌を打つこともなくハンドルを握り続けていた。
こんな気持ちを知る前にあのお好み焼き屋さんでちゃんとこの話をすればよかったんだ。
そうすればこんなにも胸が苦しくなることなんてなかったのに…
たった2週間の恋…
いつかは話さなきゃいけなかった。悲しいことは少しでも軽い方がいい。
「話はそれだけ?」
ため息混じりに桜木チーフは言葉を発すると車を路肩に停車させた。
ファザードランプがカチカチ鳴る車内。
…降りろって言うことか
「申し訳ありませんでした…」
私は頭を深く下げてドアに手をかけた。
「失礼しま…」
「おぃ!」
やっぱりこれは夢なのか
「俺をそんなに見くびるな」
…ウソだ
「桃子…おまえは全然わかってない」
私の耳もとで言葉を紡ぐチーフ…ってことは…
「そんなことぐらいじゃ俺は…大事な姫を手放したりなんかしないよ」
広いけど狭い車内で
「…ったく。世話の妬ける姫ぎみだこと」
また、抱きしめてもらっていた。