
BLUE MOON
第4章 スタート
「おはようございます」
コーヒーの香りと共に現れたのは出勤前にキスをしたモモだった。
「ありがとう」
本日2杯目のコーヒーを受け取るとモモは心なしか頬を赤らめた。
同じタイミングで家を出るつもりだったけどモモがそれを拒んだ。
バレたって俺は全然構わないのに『知られたらどうなることやら…』と溜め息混じりに全力で拒絶する。
彼女を職場で困らせるのもなんなんで取り敢えずモモの意見を受け入れたけど
「宜しかったら魚住課長もどうぞ。あ、白石くんも飲む?」
お盆を片手に笑顔を添えてにコーヒーを配るキミを見てる俺の気持ちなんて
「…はぁ」
わかってくれてないんだろうな。
俺は気を反らすようにコーヒーを一口飲んで経済新聞を手に取ると
「らしくないねぇ」
「うるせぇよ」
ニヤニヤと笑いながら魚住がコーヒーを片手に歩んできた。
「どう?無事に引越しはすんだ?」
「お陰さまで」
大阪から帰ってバタバタしていてずっと実家に身を寄せていたオレ
「あ~ぁ、うちの課の姫をおまえみたいなのに独り占めされるとはなぁ」
「何が言いたいんだよ」
同じ職場でアシスタントとして働いているのに 忙しくて寂しい思いをさせていた。
モモはワガママ一つ言わないでただ俺の連絡を待っていてくれた。
結婚を前提にと言ったけどこれだけ課のみんなから可愛がってもらってるんだ、いつ心変わりをするのか俺こそ不安で
「泣かしたら許さねぇからってこと」
「それは上司として?」
「男として」
「阿保くさ」
年甲斐もなく禁じ手を使ってしまった。
「それより桜木、おまえ案件を抱えすぎじゃないか?」
「そうか?」
「そうか、じゃねぇよ。俺等の上に立つ準備も始めてるっつうのに」
「まぁ、どうにかなるだろ」
一緒に住んだって悲しい思いはさせてしまう。
「来月アイツが戻って来ることになったから少しは仕事振れ。そしたら少しはマシになるだろ」
「大丈夫だって、アイツの力を借りなくてもこなしてみせるから」
モモとのことを正式に公表できるまで
「言うねぇ」
「誰だと思ってんだよ」
認めてもらえるまで
「桜木チーフ、今日の予定を確認したいのですが…」
「ももちゃん御馳走様でした。じゃ桜木、無理すんなよ」
「おうよ」
とりあえずはこの笑顔を独り占めするためにやるしかねぇな。
