
BLUE MOON
第4章 スタート
「カテゴリー別にしてくれたんだ」
「その方が見つけやすいと思いまして」
『痒いところに手が届く』モモにピッタリな言葉。
どの書類に目を通しても細やかな配慮がなされていて 相手先の担当も資料を見いってしまうほどどれも良くできていた。
「それとですね、△×産業の□○さんが話を進めて欲しいと連絡がありました」
会社に戻る前に空を見上げるとビルの隙間から三日月が見えた。
月好きな彼女と暮らし始めて二人のペースをつかみかけてきた今日この頃
「ホントに?また園田さんに助けられたな」
「私の力なんて微々たるものですよ」
職場でも家でもモモがサポートしてくれるから仕事に全力で打ち込めていた。
でもその裏でモモに無理もさせてるのかもしれない。
コーヒーを淹れてくると席を立った後ろ姿、モモは肩に手を添えて首を回していた。
…今週末はのんびりさせてやれるかな
芳しい香りと共に現れたモモに礼を言いながら俺はコーヒーに口を付けた。
「…園田さん」
「はぃ?」
「忙しいところ悪いんだけど、明日この会社のことを少し調べておいてくれるかな」
メモ書きをモモに渡す。
「わかりました。あれ?この会社…日本の会社じゃないですね」
「そうなんだ、今急成長してる香港の会社」
「香港…ですか?」
「あぁ、来週いっぱいかけてその会社を口説いてくる」
タブレットをいじりながら軽く受け答えると
「出張…ですか?」
心なしか声が隠った。
…ったく
渡した小さなメモを見つめながらモモは小さく息を吐く。
内緒にしたいって言ったのは俺じゃなくてモモなのに
「俺がいない間よろしく頼むな」
本当なら 抱きしめたいぐらいに堪らなく愛しいのに頭をポンと叩くにとどめる。
するとモモは頬だけ上げて
「チーフから大量に支給されてる仕事を片付けるチャンスですね」
無理して笑って見せた。
…寂しいならちゃんと言えってくれればいいのに
俺はデスクの引き出しから付箋を取り出してペンを走らせ
「悪いんだけどこの仕事だけは必ずやっといて」
モモのデスクトップに貼る。
「さ、桜木チーフっ!」
モモはその一文を読むと付箋を勢いよく剥がして頬を染めた。
『毎日俺を思い出すこと』
寂しいのは俺の方か…
ニコリと笑ったモモを見て また知らない自分に出会えたとつられて笑った。
