
BLUE MOON
第4章 スタート
「さてと…」
ウサギが描かれているメモ用紙に一週間分の仕事の予定を書き込んだ。
涼さんは早朝、ベッドにパジャマ姿で横たわる私にキスをして出張先に向かった。
本当ならば彼の視線とぬくもりを感じて今朝目覚める予定だったのに
…イタタっ
毎月ある憂鬱なプレゼントに悩まされて求めてくれる彼を拒まなければならなかった。
涼さんはしょうがないといいながら いつもよりも優しく私を抱き寄せて私の目を瞑らせた。
「ももちゃん、桜木がいない間よろしく頼むね」
スクラップブックを広げてパソコンに向かったそのとき 魚住課長が空いている涼さんの椅子に腰かけた。
「はぃ、チーフに頼まれていた仕事を取り敢えず片付けます」
「アイツは人使い荒いからなぁ」
「…ですね」
涼さんと魚住課長は同期で仲がよく 私たちの仲を知ってる数少ない一人。
「アイツから連絡来たら回すから居場所だけ俺に伝えておいて」
だから 小さな声で私にこんな気遣いまでしてくれるのだろうか。
課長はそれだけ告げると席を立ち
「ちょっといいか~!」
パンパンと手を叩いて声を張った。
私の机の周りに営業部のみんなが集まりだす。
私も急かさず席を立ちその輪に加わると
「五十嵐」
…?
いつか聞いた名前を呼んだ。
課長の横に立ったのはこれまた背の高い人。
「ニューヨーク支社にいた五十嵐が今日から仲間に加わることになった」
そう紹介された長身の男性は目に掛かる髪をサラリとかきあげた。
…あ
その瞬間 視線が重なったような気がした。
どこか冷めた瞳。それは髪の色と同じアイスグレーがかった色のせいだろうか。
「五十嵐です。よろしくお願いします」
笑顔一つなく軽く挨拶をすると彼はまた長い指で髪をかきあげた。
「どうやら上層部は本気モードのようだ。桜木を戻したと思ったら今度は五十嵐まで送り込んできやがった」
課長が話している間も私と視線が重なる。
外しても外しても重なる。
「取り敢えず五十嵐には…山本さん、アシスタントについてくれるか?」
「わかりました!」
それは何かの前触れだったのか視線を重ねていた五十嵐さんがふと微笑むと
「魚住課長、オレあの娘がいいんですけど」
…え
真っ直ぐに人差し指を向けたのは
「わ、私ですか?!」
紛れもなく私、園田桃子だった。
