BLUE MOON
第6章 星空
「三日月ねぇ…」
桃子の笑顔を見て安心した。
「私には勿体ないよ」
今朝、彼女を探すと給湯室で日課であるコーヒーを落としていた。
そんな桃子の首に掛かるのは存在感のある三日月型のイエローダイヤのネックレス
「いいんじゃない?チーフの気持ちなんだから」
そのトップを幸せそうに触りながら愛をたっぷりと感じているご様子
そりゃそうだよね、あんな現場を見て疑わない方がおかしいもの
昨日までの桃子はいつも通り平静を装って振る舞っていたけれど 給湯室でこっそり涙を溢してたのを私は知ってる。
チーフへの想いが深くなるほど立場の違いに悩み戸惑っていた。
だから少しでもチーフの隣が似合う女になろうと仕事終わりに私を誘って買い物に出掛けたり努めていた矢先にあの出来事
「ねぇ麻里、やっぱりおかしくない?」
桜木チーフが桃子の気持ちを察して用意したのはわかるんだけど
「ハィハィ、似合ってますよ」
二人の絆を深めるにはそれじゃあまだまだ足りない。
それは桃子も一緒だろうな
「…」
「似合ってるって言ってるでしょ!」
ネックレスはお金を出せば買えるもの。
物質的なものではなく想いが積み重なれば二人の仲はもっと繋がるはずなのに
「そんな顔するならアタシが貰っちゃうよ」
「それはダメぇ!」
桃子にはついついお節介を発動してしまう私が勝手に頭を悩ませていると
「ももちゃ~ん。夏休みの希望そろそろ出してもらっていいかな?」
モーニングコーヒーを待ちくたびれた魚住課長が給湯室に顔を出した。
「すいません、今日中に出します」
桃子はコーヒーを課長に渡すと残りのコーヒーをトレーに乗せた。
「魚住課長」
「ん?」
もしかしてこれは…
「チーフはもう夏休みの希望出しました?」
「アイツもまだ。今日出すって」
チャンス到来だよ!
「桃子、これだよ!これ!」
「へっ?」
相変わらずこの娘はなんにも考えちゃいない。
「チーフと休み合わせて旅行でも行って来なよ」
「麻里ちゃんグッドアイディア!」
「はぃぃ?!」
桃子は大きな瞳を落としそうなほど見開く。
「善は急げってことで」
課長はトレーからコーヒーカップをもう一つ取ると
「桜木~ちょっといいかぁ?」
「課長っ!ちょっと待ってください!」
ウインクを一つして給湯室を後にした。