BLUE MOON
第7章 立場
夏の終わりを告げる秋の風がカーテンを揺らし始めると涼さんの仕事は益々忙しくなった。
…ガラガラ
開けっぱなしだった窓を閉めながら空を見上げると胸に輝くような三日月が真っ正面に見えた。
二人で夜空を見上げたのはいつだっただろう。
一人で夕食を取り、洗い物をして洗濯物をたたむ日々を送っていた。
「つまんないの」
テレビの音が響き渡るただでさえ広いこの部屋が一人になるとさらに広さを感じる。
私はリモコンをテーブルに置きソファーに横たわって軽く目を閉じた。
「痛たたっ」
こんな風にネガティブになってしまうのは月に一度の女子日のせいなのか。
それとも
「全然してないな…」
土日もほとんど休みなく働く彼に触れてもらえないからか。
毎朝、キスは必ずしてる。
でも甘いというか挨拶のような軽いキス。
体の芯まで蕩けるようなキスをしたのはいつだっただろう。
唇に指を添えながら愛しい人を想う。
きっと今日も午前様
仕事で疲れた彼を出迎えたいけど起きていると心配するから今日も私は一人で寝室に向かった。
*
…カチャ
ネクタイを外しながらリビングに入る。
「はぁ…」
大きく息を吐いてソファーにドカッと座るとモモの甘い香りが鼻についた。
今日もこのソファーでゴロゴロと過ごしたのだろう。
「同棲なんて名ばかりだな」
モモの寂しげな顔が目に浮かぶ。
いつだったか帰宅してベッドに入ると俺の枕を抱きながら頬を濡らしている日があった。
…カチャ
今日もモモは俺の枕を抱いて眠っている。
「もう少し我慢してくれ」
丸みを帯びた額に唇を落として柔らかな頬を指で撫でる。
先日、グループ会社に勤める兄にモモのことを話したら案の定心配された。
兄の嫁さんもお袋と同じ俗にいういいとこのお嬢様。
まぁ これだけデカイ企業なら嫁選びも仕事のうちなのかもしれない。
『添い遂げたいなら仕事で成果を出して一族を黙らせないと難しいんじゃないか?』
わかってる
わかってるんだけど時間はそんなにないみたいだ。
『お袋が痺れを切らして見合いのセッティング始めててたぞ』
惚れた女がいるのに見合いなんてたまったもんじゃない。
何も知らないモモを寝顔にもう一度唇を落とす。
…めちゃくちゃに抱きてぇ
ずいぶんとご無沙汰な俺は熱を治めるために風呂場に向かった。