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桜花楼の恋

第8章 明かされた正体

・戸塚side

とうとう月が変わってしまった。



五「どう?北山の様子は」

河「見てられないぜ」



丸障子の隙間から、部屋の片隅で丸くなり俯いている姿を横目で見ながら河合が言う。

北山…

今その胸のうちには、一体どんな想いが去来しているの。



河「朝から、ずっとあんな感じでよ」



なんでそう独りで抱え込もうとするんだ、もっと甘えてよ俺達に。

そりゃ、どうする事もできないかもしれないけど。

これでも、心配しているんだから。



塚「そろそろ夕刻だね」

河「どんな奴なんだろう、その先様とかいう侍」

五「あれ良亮は?」

戸「さっき番頭に呼ばれてた」

五「なんで?」

戸「今日、来る予定の北山の客が部屋へ案内するのはハッシーがいいって言ったんだって」

河「侍のやる事ってわけ分からないわ」

塚「俺みたいに風変わりな奴もいるけど、クスッ」

五「塚ちゃんは特別さ」

河「つうか、そうだっけ」

塚「うわっ、失礼しちゃう一応は」

河「きゃはははっ」



ふっ…

河合ったら無理しちゃって重い空気をなんとか変えようとし。

でも、ありがと。

そう、実はこの塚ちゃん俺も知ったときには驚いたんだけど家が道場だったりするわけで。

ここへ来るときには町人の格好をしているから、言われるまで全く気づかなかったんだ。



塚「あっ、ニカに千賀」

河「どうしたんだよ、お前ら?」

ニ「俺達も、ここにいていい?」

千「宏光のことが心配で居ても立ってもいられなくてさ」

五「そういうこと」

河「どうするトッツー?」

戸「構わないよ、ニコッ」

千「さっすが太夫」



気になるのは皆、同じ。

それから暫くして、廊下を歩く足音が聞こえ。



橋「へぇーお侍さんって尾張の人なんだ」



先様って客が来たのが分かり、俺達の間にも緊張感が走り抜ける。

そして━



橋「おいでなさいました、よろしゅう願いまーす」



いよいよだ。




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