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桜花楼の恋

第10章 切なき逢瀬

・戸塚side

“コッケコッコォーッ”

その瞬間、誰もがハッとし顔を見上げる。

そして━



戸「一番鶏が…鳴いた‥」

橋「若様が帰っちゃう、ダッ」



廊下へと飛び出せば。



ニ「ガヤ!」

河「太輔!」

五塚「藤ヶ谷!」

宮千「ガヤさん!」



そこには…



高田「刻限でござる若君」

丸山「夜が明けてまうよって早よう屋敷へお戻りを」



この2人が控えていて俺達が見つめる中、静かに障子は開き。



藤「みんな…フッ」



何とも言えない表情をした藤ヶ谷が姿を現したんだ。



戸「北山は?」



が、そう言うとチラッと視線を後ろの方へ向け。



北「くっ」



肌襦袢を肩から掛け布団の上で座り込み俯いてる姿に、俺は堪らなくなって駆け寄り抱きしめてしまう。

そしたら…



藤「トッツー」

戸「なに?」

藤「こいつを…頼む‥」



藤ヶ谷は背を向けたまま、絞り出すような声でそう言い。



戸「俺が支えるなんとしても、だから心配しないで」

藤「ありが…と‥クッ」

北「うっ」



だけど、その後ろ姿は小刻みに震え。

泣いているの?



五「俺らも傍にいる」

塚「全力で護るから」

ニ「俺もガヤ、クッ」

千「宏光は誰にも触れさせたりはしない」

橋「ハッシーだって頑張るよ」

宮「みんなで力を合わせればきっと」

河「任せとけ太輔」



そうだよ力は弱いかもしれないけれど、俺達は決して権力なんかに負けたりはしない。

強い絆があるんだ。



藤「くっ」

高田「では参りましょう」



が、その足が一歩前へ踏み出したとたん。



北「藤ヶ谷!」



北山が悲痛な声を上げ、そこにいた全員の動きがピタッと止まる。



藤「なに?」

北「…今度‥いつか…あの谷へ一緒に行こうな」

藤「‥‥っ」

北「俺達が初めて会った、あの」



と、次の瞬間クルッと向きを変えた藤ヶ谷は。

ダッ、ギュッ!



藤「思い出してくれたの、ひろ クッ」



その身体を強く抱きしめ、目からは止めどもなく涙が零れ落ち。



北「藤の花…谷に落ちたから‥出会えた」

藤「あぁ、そうさ フッ」



見つめ合う瞳には━



北「んだから、お前の名は藤ヶ谷…太輔‥ヒック」

藤「生涯お前を想い続ける証しとして、ニコッ」

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