
俺のテンちゃん
第1章 8月20日
「アタル起きて!」
「ぅう~ん もぅちょうとぉ~」
「もぅ!」
ジャーッ!!
チリンチリリン…チリン…リン
ガラガラガラガラガラ…
勢い良くカーテンを開けて窓を全開にすると、残っていたエアコンの冷気を押し退けムッとする熱気が幅を利かせて来る。
「眩しい!」
俺はタオルケットを頭から被り抵抗した。
「風鈴の紙、付けないなら何で掛けとくの?」
テンちゃんは埃を被るだけの装飾品が気になって、定期的にこの質問をする。
「良いのぉお気に入りなんだから」
風鈴の音は嫌い。料理の時ボールの端に菜箸が当たる音も嫌い。とにかく無駄に響く音は耳ざわりだから嫌い。だけどランチュウの形をしたその子は、俺のお気に入り。
「ほら…もぉ!起きてアタル」
ケットにそーっと手を入れてテンちゃんは、俺のお臍の側まで手を這わせる。
「くすぐったい!もぉ」
俺は、いつもの様にベットにテンちゃんを引き入れて覆いかぶさった。
ん!?誰だこのロン毛のギャルは!?
いつもより鼻にかかった様な、変な声してるなぁとは思ったけど…。
ふんわり香る匂いも、いつもより甘い香水みたいな匂いだし…。
「あんた…誰?」
「寝ぼけた事言って無いで、もぉ化粧終わってるからキスしちゃダメだよ」
「はぁ?」
確かに仕草や言動、骨格はテンちゃんに似てるけど…。
俺の好きな、唇の下の色っぽいホクロはテンちゃんと一緒だけど…。
「早く支度して!お互いせっかく有給取って海行くのにぃ」
そう…今日はテンちゃんと海に行く日。
今朝届いた郵便物を手に取る───。
『天野 照 様』
「テンちゃん?…DM着てるよ」
この葉書で、この娘がテンちゃんかどうか確認してみる。皆はテンちゃんの事をテルちゃんと呼ぶ事が多い。けど俺は、天野(あまの)の天からテンちゃんと呼ぶ。
「ありがとぅどれどれ?あっ!ココね…ふぅ~ん」
どうやら…この娘は、テンちゃんらしい…。
