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雪に咲く花

第38章 亘の空白

颯人が出ていった後、亘は睨むように悠希を見た。
「悠希君、いったいどうしてあんな嘘を言ったんだ?君は自分のしたことが分かっているのか?」
顔を赤く腫らした悠希が涙を流して言った。
「ごめんなさい……俺、亘さんが……」
亘への思いを伝えようとして躊躇する。
こんな卑怯な真似をした自分に、気持ちを伝える資格などない。
「亘さん……ごめんなさい……」
これ以上、亘の顔を見ることが出来ず、悠希はジャンパーを着ると外に出ていった。
悠希を追いかけることもなく亘は考え込む。
雪斗が辛い過去を抱えていた。
それも耳を塞ぎたくなるような壮絶なものだった。
「俺は、何と酷いことをしてしまったんだ!」
いじめを受けたあげくにレイプまでされた傷心の彼に、酷い言葉を投げ掛けてしまったのだ。
しかも、自分の母親の死に目に雪斗が引き合わせてくれていたとは……。
母が亡くなったことを聞かされても、しがらみが邪魔をして、彼女の最期の状況を知ろうとはしなかった。
意地など張らずに、そのことを深く追及していれば、こんな誤解は生まれなかっただろう。
「頼む!俺の記憶を戻してくれ!」
なくした記憶がかけがえのないものだったと知り、祈らずにはいられなかった。

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