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雪に咲く花

第38章 亘の空白

いつもなら、直ちに止めに入る亘だが、颯人から聞かされた衝撃的な内容に呆然と立ちつくしていた。
「まさか、あの子がそんな酷い目に!……」
顔が腫れるまで悠希を殴り付けた後、颯人が亘の方に向き直る。
「亘兄が母親の死に目に会えたのだって雪斗のお陰なんだよ」
「いったいどういうことなんだ?」
記憶を失った後、憎しみを抱いていた母親の写真が置いてあったことに疑問を抱いた。
母が亡くなったことを聞かされ心が傷んだが、母の死までのいきさつを忘れた亘の心は、まだ憎しみを抱いている時に戻っていたのだ。
写真を見るのも辛くて、目に見えない所に隠してしまっていた。
「亘兄は、お袋さんが亡くなる前に、お袋さんを恨んでなかなか会おうとしなかった。雪斗が亘兄にやっと会う気にさせたとき、お袋さんは死ぬ間際だったんだ。その時、やっと亘兄はお袋さんを赦したんだよ」
空白の時間に、雪斗が母親との絆を取り持ってくれたことで和解出来ていたことは、まだ聞かされていなかった。
そんな貴重な出来事があったとは……。
亘が頭を抱える。
「雪斗の言う通り、今の亘兄が別人だという意味が分かったよ。もうあんたとは絶交だ!」
颯人が亘に言うと部屋から出ていった。

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