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ながれぼし

第3章 冬以上春未満



ザァァ…ン…。

遠くで聴こえる波の音。

ロマンチックにライトアップされた園内。

智と俺が恋人同士なら最高のシチュエーション。


でも…

「…っふ、……くっ…」

情けないくらいにこぼれ落ちる涙。

押さえきれずに溢れてしまった気持ち。

答えなんてわかってる。

けど…どこか儚げな智の瞳を見たら、吐き出さずにはいられなくなった。


大「お前って、海 好きか?」

「…え?」

てっきりバッサリ『無理』って言葉が返ってくると思ったのに、意外な返答にポカン。

大「ひっでー顔。」

…なに、それ。

「ひど…」

大「せっかく可愛い顔してんのに。」



…え…?

大「俺さ、海好きなんだよね。だから見に行こうぜ?」

そう言ってまた引かれた腕。

抜けそうになった腰に力を入れ、引かれるままに着いていく。


ゆっくりと歩く智。

そして…

その穏やかな声で、ゆっくり。ゆっくり。話を始めた。


大「俺さ、お前に謝んなきゃなんないことができた。」



大「俺、翔ちゃんとは付き合ってない。
と言うか、恋人も居ない。ずっとね。」



大「嘘。付いてて悪かった。ごめんな。」

…それって

「それって…喜んでいいこと…?」

大「…んー?…半々。かな?お前にとったら。」
そう言って、真面目な顔で俺を振り返る。

半々…


そして、また前を向いて、ゆっくりと歩き出す。

大「俺さぁ、すげーモテるんだよね。昔っから。自分で言うのもなんだけど。言えちゃうくらいモテんの。」

そりゃそうだよ。

だって、こんなにかっこよくて、かわいくて、笑った顔なんか地球が爆発するくらい破壊力があって、その透き通るような穏やかな声が聞けるだけで幸せで、女の人なんて顔負けの長くて綺麗なしなやかな手指は見惚れるほど、ふわふわと柔らかな…

大「もう嫌だった。」

「…え…?」

大「誰かわかんない奴に告白されんのも、触られんのも、触んのも、声かけられんのも、話すのも、笑うのも…。
帰り道…後付けられんのも、鳴りっぱなしの携帯も、怖い思いすんのも。もう…嫌だった。」


…あ

……あ…

それって…

「…さと…」

体が…声が…震える…

それって……

大「人ってさ、怖ぇーのな。」

はは。っと笑いを漏らす智。
顔は…前を向いていて見えない。

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