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ながれぼし

第4章 back to the 現在

*櫻井*




あれは忘れもしない

暖かな雨が降る日だった






昼間の眩しい位の日差し

今はその面影はなく、もくもく。という表現がぴったりのぶ厚い雲が夜空を覆う


そして落ちてくるのは、大粒の雫


『雨かぁ…冷たそ……』

会社の出入り口に立つ俺の口から出た言葉


けれど、そんな言葉とは裏腹に
伸ばした手に当たる雫は


なぜだかとても暖かかった



早目に退社出来た気持ちの問題なのか
はたまた温暖化現象の影響なのか


それとも
何か良いことが起こる兆し。なのか



そんな帰り道だった


…ん?


この雨の中
傘もささずにベンチに腰をかけ空を見上げている人を見つけたのは



なにしてんだ?


…けど、気になったのは少しだけ


人には人の事情がある
別に倒れてるわけでもないし と前を通ろうとしたその時だ…


『ぶえっくしゅん!!』


その人が大きなくしゃみをしたんだ


かなりの大きさだったからさ
俺は反射的に振り返って…


『ぁ………』





一目惚れだった





***



大「翔くん…」


「ん?」


大「桃…食べたい」


掠れた声を出すのは智くん



確か…棚にあったはず

「待ってて」


俺は、あの日からあの時から
智くんにぞっこんなんだ



ベンチに座ってた智くんは、顔が赤くて

空を…見てたんだって
雨が降る様子が綺麗だったからだってさ



大「やった」


あの日も、熱の出た智くんは今みたいに桃が食べたいって
しかも桃缶


「ちゃんと寝てなね」


そう声を掛け、腰かけていたベッドから立ち上がろうとした
けど…


つん。

と、俺の裾は引っ張られ


大「…やっぱり寂しいから行かないで?」


熱のせいか潤んだ瞳





……これは拷問か?


大「翔くんがいれば元気になるから…」


そしてピンクに染まる頬を緩ませ
ほにゃん。と力なく微笑む





拷問じゃん




まぁ俺 理性はあるんで

そっと布団へと滑り込ませた手で、離れてった熱をもった手を握る


でもさ…
「早く元気になってよ」


やっぱり拷問は辛いから



ゆっくりと屈めば、貴方はゆっくり瞳を閉じる

そして俺は、暖かな額にキスをおとす





過去も現在も

俺は貴方に首ったけ




*おわり*

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