ギムレット
第3章 ビトウィーン・ザ・シーツ あなたと夜を過ごしたい
「三田村のおっさんと付き合ってるの?」
振り返るとタクが店から出てきて後ろに立っていた。きっとキスしていたのを見ていたんだろう。
「見てたの?」
私がそう聞くと、私の顔から視線を右にそらして
「たま……たま…」少し切ない少年のような顔をして言った。
「付き合ってるように、見えた?」
タクは私の方にそらした視線を戻して、恥ずかしそうに頬を染めた顔で無言で私を見つめた。
「あの人はカサブランカに通うようになって何百万も使ってる。私を指名して何百万も使っているのだから、既に私を自分の所有物だと思っているのかもしれないわね」
私はフッと少し笑った。
「使った金額は私にではなくお店に入る売り上げだけど、私もまたカサブランカで働く限り、あの店の所有物みたいなものかもしれない」
私はそう言ってタクの目を見ずに漆黒の空を見上げて呟いた。
「キスくらい……してあげるわ」
じゃあね。そう言ってタクに背を向けて歩き出そうとしたとき
「あっ……ちょっと……待って」と言われ左手首を掴まれた。
「もう1軒、行かない?」
タクは読みたかった小説をやっと手に入れて、その小説を読み終わった後に、やっぱり購入して正解だったんだ。と言わんばかりの高揚した顔つきだった。
それにアルコールのせいなのか赤く頬を染めた白い肌が漆黒の夜も相まって美しかった。
「こんな時間に、まだ開いてる店なんてあるかしら?」
私の問いに「この裏にあるよ」とタクは今出たばかりの居酒屋源氏の店の脇の通りを見た。
「俺の……部屋で飲まない」
この美しい男に興味があった。
私の働く田舎のちっぽけなクラブの客はほとんどが、みな、あわよくば、の思いでお店に足を運ぶ。女の肌を求めて……
そして私も今、あわよくば、の思いが自分の中に湧きあがった。
私はタクに尋ねた。
「私を……抱くの?」