風鈴が鳴らない時
第4章 思ひで
「テンちゃん…何見てるの?」
今朝は寝坊助のアタルが、ベッドから自分で出てきた。
後ろから僕を抱き締めながら襟元にキスをする。
「ん?…これねぇフリーマーケットで手に入れたと思ってたんだけど、違ったんだ…貰ったの思い出してさ」
「あっ!懐かしい…コレ高校の時テンちゃんが、かけてたダテ眼鏡じゃん!」
「うん…」
僕とアタルが出会った頃は、特殊な能力が有ったこの眼鏡…。今では本当に、なんの変哲も無い眼鏡になってしまったけど…「大切にする」という意思だけは無意識で守り続けていた。
だから今も…定期的に拭いて乾燥させて…ケースにしまっておく。
「誰から貰ったの?」
「不思議なおじいちゃん達に…中学生の時に貰ったんだょ」
そういえば…アタルと付き合うように成るのと同時に、この眼鏡の特殊な能力は消えてしまった。
アタルが僕を大切にしてくれる人だったから?なのかなぁ…。
おじいちゃんから受け取って、後にも先にもアタル以外の人がこの眼鏡に触れた事はない…と思う。僕以外の人間がこの眼鏡を触ったせい?「触らせるな」と言われた訳じゃないけど…大切にするってことは、無闇に人には触らせないっていう暗黙のルールがあったのかなぁ?